[舞台BANANAFISH前編感想]なぜ英二はアッシュのそばにいたいのか


舞台バナナフィッシュ前編、大楽おめでとうございます&お疲れ様です〜!
17日マチネを現地で、初回及び前楽、千秋楽を配信で視聴しました。それらの感想メモを自分用の備忘録としてまとめたものです。

3月19日、推しが英二を演じると情報解禁され、翌日原作を履修しました。

その際、アッシュから英二への気持ちは理解しやすいけれど、英二からアッシュへのそれは個人的に理解しがたかったのです。
初日までの間にいろいろ考えて、原作者の「魂の相棒」発言を踏まえると、「アッシュのそばがしっくりきた(足りないものが埋まる、満たされる感覚があった)」のかな、と解釈するに至りました。

そうして迎えた初日、配信を視聴して疑問に思ったシーンがありました。
それは二人の出会いのシーン。「人をころしたことある?」と尋ねるくるむ英二の顔に怯えがなく、「やっぱり」と呟くシーンにはむしろ好奇心が宿っていました。推しのくるむくんに対して、感情の表出がちがくない?!と驚きました。英二は初めて命を奪い合う環境に触れたわけだから、恐怖心を抱いているに違いない、と思っていたのです。
初日を全景で3回観ても解けなかった疑問は、現地で観劇した瞬間、腑に落ちました。
そうか、英二は最初からずーっと、アッシュのことを怖がってはいなかったんだな。そう認識を改めました。

英二の最大の特徴として、個人的には「目の前の人物や事象をありのまま受け止めることができる」と解釈しています。
だからこそ、アッシュはすぐに英二に気を許したのかな、畏怖でも同情でもなくありのまま受容してくれた初めての、そして唯一の人間だったからかな、と。

そう理解すれば、アッシュから英二への気持ちはすごく共感しやすい。
例えば。アッシュの「カボチャが怖い」と吐露するシーン。「カボチャ」は「アッシュ自身」なんですよね。窓に映った自分自身が恐ろしくてずっと怯えていたのに、英二は背中を撫でてキラキラした瞳で肯定して、それを笑い飛ばしてくれる。
そんなんだめじゃん。救われちゃうよ。

けれど、英二からのアッシュへの気持ちは共感どころか、理解さえも難しい。
英二がなぜアッシュのそばにいたいと思ったのか。
その理解が深まったのは17日、劇場にて、推し定点で物語を観たときでした。

ゴルツィネ邸から脱出し、ホテルでアッシュと向かい合った英二は、「なんだか恥ずかしいね」と笑います。緊張や照れから、元気づけよう、明るく振る舞おうとしているのが伝わってきました。
その演技は初日も17日も変わらなかったと記憶しています。
変化があったのは、夜うなされるアッシュに英二が寄り添うシーン。
初日の力強く言い切るような「ずっとだ!」から、溜めて、絞り出すような言い方に変わっていました。元気づけよう、光あるところへ引っ張ろうとするある種の押し付けがましさが消え、心の中にある優しくしたいという気持ちが感じられました。そしてそれを、目の前のアッシュに伝えようとしている。英二が心から、アッシュのそばにいたいと思っていることを。

その後のシーンで二人は喧嘩をして、仲直りをします。
ああ、ここが、分岐点だったんだ。
私はそう思いました。二人があの結末を辿るに至った、最大の岐路はここだったのだ、と。
キリマンジャロの雪に触れるシーン。英二は、アッシュが死にたいと思っているわけではないということを聞いて「安心した」と微笑みます。
それは、アッシュが死ぬつもりではないことが「理解できた」からではないか。怒りを表出してまで話し合いたかったのは、「そばにいる」と誓ったアッシュを、理解したかったからなのではないか、そう思うに至ったのです。

このとき、英二はアッシュを理解しようとしている、つまり「すべてを受け止めようとしている」のにも関わらず、アッシュは、アッシュ自身は、「英二を危険に晒したくない」「(自分が手を汚すところを英二に)見ていられたくない」と思っているのです。
誰よりもアッシュ自身が、英二の自分への想いを理解していない。

現地で観劇したのち、前楽と千秋楽を配信で視聴しました。
千秋楽では、前述したシーンの「君の味方だってこと」あたりからくるむ英二の目が潤んでいて、「ずっとだ」と言葉をかけるときには涙か汗か、感情がこぼれ落ちていました。
しかし結局のところ、英二がなぜ「ずっと」アッシュのそばにいたいと思ったのか、それを言語化できるほど理解できていません。

けれど、だから、二人の気持ちは最後まで交わらず、アッシュは英二の見送りに行けず、手紙を読むまで英二の気持ちを理解できなかった。

アッシュや英二の感情が揺れ動くさまを、水江さんやくるむくんを媒介にして観ました。英二の気持ちへの理解がうまく掘り下げられないことで、結末への理解が深まった気がします。
素晴らしい舞台をありがとうございました!


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それと、付記として。

あの暗転して真っ暗闇で響く「アッシュ・リンクスの死亡が確認されました」からのエンディングとカーテンコール、後編への導入、という演出が大好きです。ずっとあの曲が頭の中に流れています。生で観れて良かったな。円盤が届いたらここばっかり観ちゃうかもしれない。
後編もすごくすごく楽しみにしています!